text : 片岡 優子 photo : 岩根 愛
「前夜祭」
青方神社は新上五島町の青方郷に鎮座し、境内社として稲荷神社、多賀神社、八坂神社があります。創建は寛弘2年(1005年)で、新上五島町でも有数の古社です。古名を「山王宮」といい、荒川郷の山王山の遥拝所であったといわれています。また、日本遺産「国境の島 壱岐・対馬・五島〜古代からの架け橋〜」の構成文化財となっています。
10月から11月の2ヶ月に新上五島町の神社では、秋の例大祭が執り行われ、神事とともに国の重要無形民俗文化財である五島神楽が奉納されます。
新上五島町で奉納される五島神楽は上五島神楽保存会と有川神楽保存会がありますが、青方神社は上五島神楽保存会によって奉納されます。
コロナウイルスにより2020年秋の例大祭はどの神社も自粛により神事の規模を縮小したり中止する神社が少なくありませんでした。
青方神社においては手指の消毒の徹底、マスクの着用、島外者は基本的には参加を遠慮してもらうという案内がありました。そうして青方地区の住民を主体として例年通り11月2、3日に秋の例大祭が執り行われました。
2日が前夜祭、3日が例大祭(本祭り)です。
例年は、前夜祭を盛り上げるために、15時くらいから近所の人たちや上五島商工会の青年部が神社へと続く参道に出店を出して賑わいを作っていますが、今年はありませんでした。
前夜祭は通常19時頃より神事が開始されます。
神事が始まり、笛や太鼓に合わせて、上五島神楽保存会の宮司および禰宜たちが神殿へと続く階段の上にあがり、酒や米や野菜など神様への供物を次々と下から上へと手渡していきます。
玉串奉奠も終了し、30分ほどの神事が終了すると、上五島神楽の奉納が開始されます。神楽が始まる前には広い神社の境内がたくさんの参加者が埋め尽くされます。
今年はコロナウイルス の影響で例年と比較すると参加者が少なく、参加者はマスク着用で横の人と距離をとっていました。
上五島神楽で奉納されている神楽は二十八番。
座祓、佐男舞、長刀、露払、荒塩、五方、潮担桶舞、四天、神相撲、豊年舞・箕舞、恵比寿舞 、折敷、潔開(潔戒)、柴取、神通、
六将軍、山の進、山賀、山の太郎、山下舞、四剣、
将軍舞、平舞、鈴舞、神幣(小幣)、岩戸開(式神楽)、注連舞、幣、獅子舞
全てが奉納されることは特別な機会をのぞきありません。
前夜祭と本祭りで重複して奉納される舞もありますが、二日間を通して二十番ほどの神楽が奉納されます。
上五島神楽の演出として特筆されるべきは派手な餅まきです。
箕舞や獅子舞の奉納の途中に神事の参加者に向けて餅がまかれます。
子どもたちが周りをよく確かめずに餅にめがけてわあっ!と滑り込んで行きます。
大人たちも右へ左へと大騒ぎです。ほとんどは袋に入った餅ですが、時々、油断していると鏡餅を割ったような堅い餅が攻撃のように飛んでくることがあります。頭にあたって「あた!(痛い!)」と大声をあげるおじさんがいました。ダイナミックで大雑把なおおらかさがまた笑いを誘います。
そして、上五島神楽の最後の奉納である獅子舞には獅子が2頭、天狗も2体出現します。青方神社の獅子舞はさらに工夫を凝らしており、八体ほどの獅子が後ろから乱入してきます。
子供たちは驚き、泣き惑う。獅子たちは参加者の波を四方八方に分け入っていき、大人たちは頭を垂れ、獅子に「カカカカ」と音を鳴らし噛んでもらう。エンディングの残った一匹の獅子が去った後には、会場の皆が拍手喝采、大盛り上がりのフィナーレを迎えます。
神楽の奉納が終わると参加者がワイワイ話しながら帰っていきます。
笛と太鼓が始まり、神主たちによってはじめに神殿へと備えられた供物が階段の上から下へ下ろされていきます。
青方神社の前田宮司から、総代をはじめとする関係者への前夜祭が無事に終わった報告と感謝の言葉が述べられ、前夜祭は終了でした。22時を過ぎていました。
三日の本祭り
青方神社には狛犬がおらず、なぜか牛の像です。それも五島牛です。
詳細は 新上五島町内唯一の豆腐店「江口食品」の専務、江口太一郎さんによるブログ、スメルズ for Kamigoto に説明があります。
青方神社は、11月3日の例大祭に併せて七五三の祝いを行うことが慣しとなっています。
10時ごろから神事が始まり、神社内に着物を着用した家族がたくさん集まってきます。お宮参りの家族もいました。
新上五島町や五島市など関西以西では、お宮参りの際に近所の方や縁者からいただいたご祝儀を着物の帯にひもで括りつける「紐銭」という風習があります。
「赤ちゃんがずっとお金に困らないように」という願いを込めているそうです。
11時頃から神楽の奉納が始まります。
前夜祭と同じ演目もありますが、
将軍舞・四天・神幣(小幣)・折敷舞・獅子舞 などが奉納されました。
獅子と天狗が激しくたたかう際に、天狗が参加者の子ども(赤ちゃんから3歳くらい)をさらって、伏せている状態の獅子の腹の中に子供を押し込みます。
天狗が来た時点で子どもたちは錯乱したように泣き叫び、天狗や周りの大人たちが子供を獅子の腹の中に放り込みます。
這い出して逃げようとする子どもをさらに獅子が捕らえ、再び腹の中に治めます。
子どもは必死の形相で獅子の腹から這い出し、泣き叫びながら親元へと走ります。参加者は拍手喝采で境内に大きな笑い声が響き渡ります。
青方神社の本まつりは、3日の13時から上五島商工会青年部が執り仕切り、
奉納相撲が始まります。小学生男子の低学年から順に学年ごとに相撲の個人戦を行います。
相撲が終わると全ての神事が終了です。
地域に根付いた参加型の芸能、上五島神楽
伝統芸能や地域の祭りは排他的で、関係者以外は参加できず、よそもの扱いで冷たくあしらわれる体験をしたという話を聞くことがあります。
ところが、上五島神楽は近くに座っている方々が皆さん笑顔で気さくに話しかけてくれます。外国人の姿もちらほら見かけます。
近くのおじちゃんやおばちゃんが
「移住してきたと?あ、違うと?(笑)寒かやろ?もっと奥に入って座らんね?」
「餅は取れたね?いっぱい取れたけん、私のちょっとあげるけん!」
と様々な気遣いをしてくれ、自分が取った餅を分けてくれます。
神楽によって徐々に場の雰囲気が高揚し、神社への参拝者に一体感がうまれてきます。よそものも地域の方々が温かい雰囲気で迎えてくれることが一番の魅力です。
ただし、神社のおまつりはやはり地域の方たちが主役です。
神事に参加する際には地域の皆さんがされているように、神様へ御神酒や志のお金(3000円程度)などを奉納する心遣いがあると地域のみなさんとの一体感を楽しむことができるのではないでしょうか?
祭りはみんなでつくりあげるもの。伝統文化を地域の内外で支えて行きたいものです。